<p>実態のない音楽ビジネス</p> <p>小室哲哉 これは、僕の持論なんだけど……CDなんかのパッケージビジネスとは違って、ダウンロード、ファイルビジネス、ストリーミング、クラウドって実態はない。空から降ってきますみたいなところですよね。でも、実際は200年か250年くらい前からそのシステムはあった。譜面を貸して、演奏させて、音楽をエンドユーザーに楽しませて、演奏会が終わったら譜面を回収していたわけで。それってストリーミングと同じで、自分のもとに残るのは、ある年のある日のある時間のある瞬間の音楽とともにある、心象風景や潜在意識。その時の喜怒哀楽が、音とくっついているだけ。CDの棚を作って、パッケージを綺麗に揃えたりする必要は全くない。</p> <p>ジェイ・コウガミ なるほど。</p> <p>小室 僕は、20世紀には本当はバサッと終わってほしかったと思っていて。今は最後の大掃除のような状態ではあるけど、下手したら何億円にもなるものが落ちていたりするので、まだ完全には20世紀モデルから離れられない。2000年からこの14年間は、アンディ・ウォーホルがコピー文化って言った時代からのフェードアウトが続いている。</p> <p>ジェイ 実際デジタル時代の音楽ビジネスにおいて、音楽家がマネタイズできていないのと同じく、200年前の音楽家もそうだったと思いますが。</p> <p>小室 そこにパトロンがいたんですよね。今なら、音楽に理解のあるレッドブルやバーンがパトロンになって、ミュージシャンに“場”を提供する。宮廷音楽の頃は「今週末、舞踏会があるから、どこかの国王も来るし、いいの作ってよ」って、モーツァルトに曲を作らせていた。それでよかったら、招かれた国王は自分の国に帰って民に言うわけですよ。「あそこの国が抱えている音楽家はスゲエぞ」と。それがプライドや自慢になるわけ。今でいう拡散ですよね。その拡散には、強大な力があったと思います。僕は、音楽に関する21世紀というのは、200年サイクルで、今、やっと2回目のサイクルが回り出してきたって思っています。</p> <p>ジェイ デバイスが違うだけでっていう考え方ですね。</p> <p>小室 だから、今ライブとかフェス、イベントにみんな一生懸命になって「この週末、ここに集まったほうがいいよ」って拡散して広げて、それに来た人は、そこにいたっていうことでまず優越感に浸る。それを、広げたい気持ちは高ぶるばっかりで、その力がすごい力になる。</p> <p>ジェイ そうですね。</p> <p>小室 なかには、CIAじゃないけど、スパイのような人を忍び込ませる王様もいるかもしれなくて「お前、暗譜してこい」ということをやらせてた人もいると思うのね、絶対ね。暗譜ってそこから生まれたと思うので。それは、ハッキングなのか、データのコピーなのかわからないけど。</p> <p>ジェイ ブートレグとか。</p> <p>小室 それに近いと思います。僕は、作詞と作曲の両方を加算するとね、今、1400曲くらい作っているんですね。1500曲にほぼ近づいていると思います。モーツァルトの時代から考えると、量産という意味では、圧倒的に僕らのほうができていて、それはいろいろなテクノロジーのおかげでもある。それがなければ、この量はできなかっただろうし。でも、この先の21世紀のミュージックビジネスというか、ミュージッククリエーションは何をどうしたらいいのか? 何をお手本にしたらいいのか? というなら、もう1回200年前からやり直せばいいと思っているんです。</p>
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