<p>なぜこのように多くの待機児童が発生し、しかも年々増えているのだろうか。厚労省は、待機児童の原因を「女性の社会進出が増えたのに加え、最近では経済情勢が悪化し、これまで専業主婦であった方でも家計のために仕事に出たいという方が増えています」と、まるで他人事のように説明しているが、これは本当だろうか。</p> <p>たとえ需要が増えたとしても、市場メカニズムが機能していれば、価格が上がって供給が増えるはずだ。そうならないのは、保育料がコストより低く抑えられているためだ。たとえば東京都の公立保育所の保育料は、ひとり月額2万円だが、その運営費は平均50万円。つまり児童ひとりに48万円の補助金が投入されているのだ。私立保育所(社会福祉法人)の場合にも、月2万円の保育料に対して補助金が28万円も投入されており、保育所は公立・私立を問わず、税金で運営されている公共事業のようなものである。</p> <p>月2万円というのは食費より安いので、必要のない親も申し込む。その結果、超過需要が発生して大量の待機児童が発生するのだ。80万人の需給ギャップを埋めるために保育所を増設しようとすると、全国で年間2兆円から3兆円の税金投入が必要だというのが、鈴木亘氏(学習院大教授)の推計である。</p> <p>しかし国や地方自治体の財政が苦しいため、このような財政負担はできない。それなら民間の参入を認めればいいはずだ。非営利組織(NPO)や株式会社で運営すれば、コストは認可保育所よりはるかに低く、補助金も半分以下ですむという。しかしこうした企業の新規参入には、全国保育協議会などの「保育三団体」とよばれる業界団体が強く反対してきたため、公立および社会福祉法人以外の保育所は、全体の2%しかない。</p> <p> 業界団体が規制改革に反対するのは当然である。今のように慢性的に供給不足になっていれば、親は保育所を選べないので、どんな劣悪な保育をしても文句をいわない。コストがいくらかかっても税金で補填してもらえるので、経営を効率化しなくてもいい。競争がないから営業努力をする必要がなく、園長が役所に陳情して補助金を取ってくるのが唯一の企業活動である。</p> <p>要するに待機児童は、厚労省の説明するような自然現象ではなく、このように価格メカニズムを無視して異常に低い価格で保育サービスを提供し、その差額を税金で補填する社会主義的システムのせいなのだ。世界各国を見ても、慢性的な供給不足(行列)が起こるのは社会主義国に特有の現象だ。それをなくす方法は、社会主義を解体して民間企業の参入を促進するしかない。これは20世紀の歴史が証明したことである。</p> <p> だから村木氏がこれから闘う相手は、彼女を冤罪に追い込もうとした大阪地検特捜部と同じ国家権力である。全国の保育所で働く人の数は、自治体も含めて50万人以上と大阪地検の1万倍以上の規模だ。もちろん敵は保育士ではなく、天下り先を守る厚労省の官僚とそれに寄生する業界団体である。果たして村木氏は自分の出身母体である厚労省の既得権に切り込んでいけるのか――それは検察との法廷闘争以上に困難な闘いだろう。</p>
— <p><a href="http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2010/10/post-240.php" target="_blank">村木厚子氏が闘う検察より手ごわい敵 | エコノMIX異論正論 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト</a></p> <p>良記事。公立保育園に0歳児から二人の子をお世話になった元保育園保護者としても納得のいく記事だ。</p> <p>この記事にもあるような保育業界が規制緩和に反対していることについて、規制緩和に反対して競争参入を減らそうと業界が努力しているのは、単にコスト・サービス競争に巻き込まれないようにするだけじゃなくて、「階級社会の維持」の面もあったりするんだよね。</p> <p>実は保育士の間に明確な階級差別意識があって、個々の公立保育園の正職員保育士が規制緩和に反対しているのは、その大部分の理由が階級社会のエリート的立場を守るためだったりするのだ。階級意識というのは、公立保育園»認証保育園&gt;私立保育所&gt;保育ママというような。または、園長&gt;管理職>正職員»パート»アルバイトというような。そしてそれと同じ階級意識は保育園の保護者にもあって、駅近くの公立保育園に入れたものは勝ち組、みたいな意識を持ったバカな親がかなりいるんだよね。そしてその階級を守ろうとする正職員保育士と親がタッグを組んで闘争をしているというのが、現在の保育園の保護者会。</p> <p>実は自分の子供達が公立保育園に通っていたときに、保護者会の会長をやったことがある。そのときに通っていた保育園が保育士のコスト削減のため民間会社の保育士を1/3以上にするという公設民営方式の実験を導入することになって、それを支援するという大変な作業をやった。保護者会のたびに保護者が次々と「『保育の質』を民間では担保できない」と泣くは、わめくはで大変だったのだけれど、一つ一つその反論を論理的に潰してぐうの音も出ない形に持っていって、なんとか切り抜けたんだよね。で、その「保育の質」というのを突きつめてみると、自分たちは駅近くの公立保育園に入園できた特権階級であり、入園するために支払った代償がこんなにも大きかったのにも関わらず、それを無為にするかもしれない体制変更は許せない、というだけだったんだよな。保育園に入れるためだけに必要のないのに正社員として働いて、入れたらすぐに辞めるママとか結構いたよ。公設民営を導入したということで、しばらく恨まれたけれど、何の問題もないどころか、むしろ「保育の質」が向上したそうだ。コスト削減できたのに。当の反対していた保護者達は自分の子供たちが卒園したらそんなことはもう忘れていやがるからな。今思い出すだけでも腹がたつ。</p> <p>まあ、話を戻すと、元記事にもある鈴木亘氏の保育園の規制緩和の話は読むべき。</p> <p><a href="http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/12939058.html" target="_blank"></a><a href="http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/12939058.html" target="_blank"></a><a href="http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/12939058.html" target="_blank">http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/12939058.html</a></p> <p><a href="http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html" target="_blank"></a><a href="http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html" target="_blank"></a><a href="http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html" target="_blank">http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html</a></p> <p>ところで、もう何度も書いているけれど、やはり池田信夫氏はジャーナリストとしては一流ですよね。元記事を読んでも、村木氏の検察との闘争と鈴木亘氏の主張を軸とした経済学で考える規制緩和の話をうまく絡めている。こういうスタイルはThe Economistの記事ではお馴染みなもので、広い視点と同時に逆に専門性のあるしっかりした知識、そして文才が必要なんだよね。FACTAを池田信夫氏が編集長をやれば、ビジネス系イエロージャーナリズムじゃない、きちんとしたコンテンツができてくるだろうに。</p> (via <a href="http://kashino.tumblr.com/" class="tumblr_blog" target="_blank">kashino</a>)