<p>いま、鉛筆を走らせて原稿を書いていますが、ボキボキ折れる鉛筆の芯(しん)の主成分の黒鉛(石墨)は、純粋な炭素から成る鉱物で、ダイヤモンドと全く同じ成分です。同じ材料でも、生成されるときに超高圧がかかって結晶密度が高くなると女性があこがれるダイヤモンドになり、そうでないと鉛筆になって私の手元で忙しく使われることになります。そう考えると、この鉛筆に温かい言葉の一つでもかけてあげたくなります。</p> <p> さて、「ダイヤモンドの価値は4Cで決まる」と言われます。4つのCとは、大きさを表すカラット(carat)、色のグレードを示すカラー(color)、傷や不純物による透明度を示すクラリティー(clarity)、そしてダイヤを美しく見せるために施されたカット(cut)のことです。これら4Cの中で数学が活躍するのがカットです。</p> <p> ダイヤのカットは大昔から行われていましたが、最も美しく見せるための最適なカット法をダイヤの屈折率などに基づき、数学的に分析して導いた人物がいます。20世紀前半に活躍したアントワープの職人マルセル・トルコフスキーです。彼は、ダイヤモンドの加工と売買を家業とする家に生まれ、ベルギーの大学を卒業後、ロンドン大学のインぺリア・カレッジで工学を学びました。1919年に出版した『ダイヤモンドのデザイン』という本の中で、最適なカット“トルコフスキーのラウンド・ブリリアンカット”=図1=を紹介し、なぜそれが最適なのかを発表しました。</p> <p>page: 2</p> <p> ダイヤの最適なカットとは、ダイヤの内部で光を全反射させることによる輝き(ブリリアンス)と、内部で白色光が分散して7色の虹のようなきらめき(ファイア)が最大限現れるカットのことをいいます。これを考えるポイントになるのが光の屈折と、各物質が固有に持つ“屈折率”という性質です。</p> <p> 水の入ったコップにスプーンを入れると水面を境にスプーンが曲がったように見えます。この現象が起きるのは、空気の屈折率が約1であるのに対して、水の屈折率が約1.33であるために、空気と水の境界で光が折り曲げられるためです。屈折率は空気が1、水が1.33、ガラスが1.5であるのに対して、ダイヤモンドは2.42とかなり高い屈折率を持ちます。</p> <p> 一般に光が屈折率の高い物質(例えばダイヤやガラス、水)から、低い物質(空気)に向かっていくとき、入射角が小さければ境界面を突き抜けていく光と、境界面で反射して屈折する光に分かれるのですが、入射角がある角度(臨界角)より大きくなると境界を突き抜ける光はなくなりその境界面で完全反射します=図2。</p> <p> 臨界角は屈折率が大きいものほど小さくなり、水だと約48度、ガラスだと約42度であるのに対し、ダイヤは24.4度とかなり小さいのです。そのため、ダイヤの内部に入った光は他の物質に入った場合に比べて完全反射しやすいのです。</p> <p> ダイヤを最も明るく輝かせるためには、ダイヤの上面から入った光が、ダイヤの内部で完全反射をくり返し、入ってきた方向と平行にダイヤから出ていくように、ダイヤの断面の角を計算すればよいのです。ダイヤを横から見た図3で考えてみましょう。</p> <p>page: 3</p> <p> カットされたダイヤの各部分にはそれぞれ上面にはテーブル、上半分にはクラウン、下半分にはパビリオンという名称がついています。パビリオンが極端に浅い場合、深い場合、ちょうどよい場合について上部から入った光の反射具合を描くと図3のようになります。</p> <p> トルコフスキーはこれをもっと正確に計算して角度を割り出し、さらに「テーブルを広くとってクラウンを狭くすると、ブリリアンス効果は増大するがファイア効果は減少する。その逆にすれば、ブリリアンスが減少し ファイアが増大する」ことから、ちょうどよいバランスを割り出して図4に示す比率の58個の面から成る“トルコフスキーのラウンド・ブリリアンカット”を設計したのでした。</p>
— <a href="http://sankei.jp.msn.com/science/science/091103/scn0911030701001-n1.htm" target="_blank">【秋山仁のこんなところにも数学が】(89)最も輝くダイヤのカット法 (1/3ページ) - MSN産経ニュース</a> (via <a href="http://kml.tumblr.com/" target="_blank">kml</a>) (via <a href="http://gachap.tumblr.com/" target="_blank">gachap</a>)